こんにちは、絵師の徳田智子です。
絵の道に入ってはや半世紀。
日本人絵師として日本の文化について広く世界に発信していきたいと思い、伝統的な美術品でもある「掛け軸」についてお伝えしていきます。
この『月白風清(げっぱくふうせい)』の掛け軸、季節は秋で、意味は「月は白く風は清らか」です

和室の雰囲気を引き締め、訪れる人に洗練された印象を与える床の間。
その中心となる掛け軸の中でも、「書」は住まう人の心構えや季節の移ろいを表現する特別な存在です。
しかし、「どのような言葉を選べばいいのか分からない」「敷居が高くてマナーや扱い方が不安」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、床の間に飾る「書」の掛け軸の魅力や選び方から、季節に応じた掛け替え、失敗しない取り扱いの基本マナーまでを分かりやすく解説します。
一幅の書を迎えて、心豊かで格調高い空間づくりを始めましょう。
床の間に「書」の掛け軸を飾る意味と魅力
煎茶の先生から、一幅の書の掛け軸をいただきました。
その掛け軸を自宅の床の間に飾りたくてひどく汚れた我が家の床の間の大改造計画(要は綺麗に掃除しただけなんですが)がはじまりました。

おかげで、物置状態だった床の間が一番運気の上がる場所に大変身!家の空気が一変しました。
床の間に掛け軸を飾る習慣は、室町時代の茶の湯の発展とともに広まりました。
中でも「書」の掛け軸は、空間全体の品格を高める重要な役割を果たします。
ただ部屋を飾るインテリアとしてだけでなく、掛けられた言葉を通じて自分自身の心と向き合うきっかけを与えてくれます。
「書」がもたらす空間の格調と心の落ち着き
書の掛け軸には、文字そのものの美しさと、そこに込められた深い意味の双方が宿っています。
墨の濃淡や筆遣いから生み出される余白の美は、和室に凛とした緊張感と落ち着きをもたらします。
日常の喧騒から離れ、床の間の書を眺めることで、ふっと心が整うような静かな時間を味わえるのが大きな魅力です。

画(絵)の掛け軸との違いと選ばれる理由
山水画や花鳥画などの「画」の掛け軸は、季節の情景や華やかさを視覚的に楽しむのに適しています。
一方、「書」の掛け軸は、言葉そのものが持つメッセージ性や哲学的・精神的な深みを伝える点に特徴があります。
そのため、茶席やお祝いの席、あるいは日々の訓戒として、特定の思いや願いを空間に込めたい場面で選ばれています。

床の間にふさわしい「書」の種類と込められた意味
・日常の心構えには「禅語」、お祝い事には「吉語」を選ぶ

和敬清寂(わけいせいじゃく):茶道の心得としても有名で、お互いを敬い、心を清らかにして静かな心を持つという人間関係の極意を表す言葉などは、毎日の慌ただしい日常に安らぎを与えてくれるので、筆者はとても気に入っています。
床の間に飾られる「書」には、大きく分けていくつかのジャンルが存在します。
掛け軸を選ぶ際は、それぞれの特徴や込められた意味を理解しておくことが大切です。
茶席や日常で親しまれる「禅語(ぜんご)」
書の掛け軸として最も一般的で親しまれているのが「禅語」です。
禅語とは、禅宗の教えや悟りの境地を短い言葉で表したもので、生き方のヒントとなる深い教訓が含まれています。

禅語には、
- 日日是好日(にちにちこれこうじつ): 毎日が良い日であるという意味。一日一日を大切に生きる心構えを表します。
- 日々新又日新(ひびあらたに またひあらたなり): 毎日新しい気持ちで自己を更新していく大切さを説いています。
- 一期一会(いちごいちえ): 生涯に一度だけの出会いを大切にし、誠心誠意もてなす心を表します。
などがあります。お気に入りの言葉を選んで日々の生活がより良いものになりますように!
お祝いや行事に飾る「吉語(きつご)」や「和歌」
結納や正月、長寿のお祝いなど、めでたい席には「吉語(きつご)」や「和歌・めでたい詩」の掛け軸が飾られます。
吉語には、家族の繁栄や健康長寿を願う言葉が多く選ばれます。
吉語には、
- 開門多落葉(かいもんたらくよう)…新しい年の自然の巡りを味わう禅語
- 彩鳳舞丹霄(さいほう たんしょうにまう)…鳳凰が舞う吉祥の世界
- 松樹千年翠(しょうじゅ せんねんのみどり)…松のように末永い繁栄
- 開運招福(かいうんしょうふく)…運を開き福を招く
- 福寿海無量(ふくじゅ うみのごとく むりょう)…福と長寿が限りなく続く
などがあります。

・松樹千年翠(しょうじゅせんねんのみどり): どんな時も変わらない松の緑のように、長寿と変幻ない幸福を祝う言葉です。
・福寿(ふくじゅ): 幸福と長寿を同時に祈る、大変縁起の良い二文字です。
書体も「格式を出すなら楷書(かいしょ)」、「柔らかい雰囲気なら行書(ぎょうしょ)」と、演出したい雰囲気に合わせて選ぶといいですね。
季節や行事に合わせた「書」の掛け軸の選び方
春には新たな始まりを感じさせる言葉、夏には涼やかさを誘う一幅、秋には実りや静寂を味わう書、冬には凛とした空気を感じさせる作品へと掛け替えることで、床の間にはその時季ならではの趣が生まれます。
掛け軸は軸棒の部分を持って優しく巻き上げます。

日本の伝統的な暮らしでは、四季の移ろいに合わせて床の間の掛け軸を掛け替える風習があります。
季節に合った言葉を選ぶことで、旬の風情を室内に取り入れることができます。
【春夏秋冬】四季を感じさせる代表的な言葉
季節の掛け軸は、その時期の気候や自然現象を連想させる言葉を選ぶのが基本です。
- 春: 「花知鳥待(花は開き鳥を待つ)」「春風致和(春風が和やかさをもたらす)」
- 夏: 「清風万里秋(爽やかな清風が吹き抜ける)」「薫風自南来(薫風が南から吹いてくる)」
- 秋: 「月白風清(月は白く風は清らか)」「清少納言などの秋を詠んだ和歌」
- 冬: 「雪月花(四季の美しい自然の凝縮)」「無事(何事もなく平穏であること)」
季節の掛け軸のかけ替えのコツは「いつ掛けて、いつ外すか」です。
掛け軸は”先取り”が粋とされ、実際の季節より半月から1ヶ月ほど早めに掛けるのが目安です。また、同じ一幅を掛けっぱなしにすると傷むので、お気に入りは2本用意して、2〜3ヶ月で掛け替えて休ませてあげましょう。
掛け軸の飾り方・しまい方の記事も参考になさってください☝️
正月・慶事・法要など行事ごとの適切な選び方
人生の節目や年中行事においては、その趣旨に合致した書を飾るのがマナーです。
正月や慶事では前述の吉語や祝祷の言葉を選び、招くゲストへのお祝いの気持ちを表します。

この画像の掛け軸に書かれている 「瑞気満高堂(ずいき こうどうにみつ)」 は、お正月によく用いられる吉祥の禅語・祝賀の語句の一つです。特に、お祝いの膳と組み合わせるのであれば、「瑞気満高堂」は最もお正月らしい、華やかで縁起の良い言葉の一つです。
意味は、
- 瑞気(ずいき):めでたい兆し、吉祥の気、幸運をもたらす気配
- 満(みつ):満ちあふれる
- 高堂(こうどう):立派な家、広間、住まい
つまり、
「めでたい気が家中に満ちあふれる」
「吉祥の気が住まい全体を包み込む」
という、お正月にふさわしいお祝いの意味になります。
床の間に掛けることで、
- 新年の平安
- 家内安全
- 子孫繁栄
- 商売繁盛
- 福寿円満
を願う気持ちが表現されます。
法要や回忌法要などの仏事では、「南無阿弥陀仏」の六字名号や「南無釈迦牟尼仏」の釈迦名号(しゃかみょうごう)など、仏語の掛け軸を飾るのが一般的です。

名号(みょうごう)掛け軸や仏事についての掛け軸について詳しくはこちらの記事を☝️
初心者でも安心!書の掛け軸を床の間に飾る基本マナー
床の間に掛け軸を飾る際は、美しく見せるための基本的なマナーと配置のコツがあります。
難しいルールばかりではありませんので、ポイントを押さえておきましょう。
短めの書の掛け軸を床の間に飾った時、やけに高い位置に落ち着いてしまって。
床の間と掛け軸のサイズがあっていなかったんですね。「自在」という道具で高さを調整しました。

書の掛け軸を飾る高さと位置の調整コツ
掛け軸を飾る位置は、畳に座った(正座した)ときの目線の高さが基準となります。
作品の中心(または落款・落款印の高さ)が、座った人の目線よりやや高めになるように掛けるのが最も美しく見えます。
この時必要なのが、以下の一般的に広く使われているおすすめの5つの道具になります。
| 道具名 | 主な用途 | こんな人におすすめ |
|---|---|---|
| 折れ釘<無双釘・むそうくぎ> | 基本の固定用 | 持ち家でしっかり固定したい人 |
| 自在(じざい) | 高さ調節用 | 短い掛け軸も飾りたい人 |
| 鴨居掛け(かもいかけ) | 傷をつけない固定 | 賃貸・木材を傷つけたくない人 |
| 矢筈(やはず) | 掛け外し用の棒 | 高い位置に安全に掛けたい人 |
| 風鎮(ふうちん) | 揺れ防止・装飾 | 格を上げて美しく見せたい人 |
折れ釘(無双釘)に、矢筈で掛け軸を掛けます

これが矢筈(やはず)初心者なら写真のような片口(かたくち)がおすすめ

片口のメリットは
安全性の向上: 先端が片側のみ開いた形状(片口)になっており、掛け軸の紐をしっかり保持するため、作業中に不意に紐が外れて落下するリスクを減らせます。
操作のしやすさ: 高い位置にある床の間の金具へ、掛け軸の掛け緒をスムーズに引っ掛けたり外したりできます。
そのほか、詳しくはこちらの記事に☝️
天井から吊るした「自在」で高さを調節するか、掛け紐の長さを調整したりして、床の間の中央に設置しましょう。風鎮を使って風で揺れたりしないように、まっすぐになるようにしましょう。

掛け軸の幅は、床の間の幅の3分の1が目安です。標準は尺五でそれより小さい尺三・大きい尺八があります。ご自身のお家の床の間のサイズを測って、サイズもぴったりの一幅をお迎えください。
掛け軸の取り扱いで注意すべき3つの NG マナー
一つ目のNGマナーは、最もやってはいけないことで、掛け軸の表面(絵や書が描かれている部分)を素手でベタベタと触ることです。手の皮脂や水分が紙に付着すると、数年後にそこだけ黒ずんだりカビが発生したりする原因になります。
どうしても触る必要がある場合は、必ず手袋を着用するか、軸先(両端の突き出た部分)だけを持つように徹底してください。
筆者は、白手袋で掛け軸掛け替えを行なっています。もちろん、陰干しの時も保管の桐箱に入れる時も。「しまった」なんてことはないようにしています。
2つ目のNGマナーは、床の間の中でも直射日光が当たる場所に掛け軸を飾ることです。
3つ目のNGマナーは、エアコンの風が直接吹き付ける位置に掛け軸を飾ることです。

なぜなら、紫外線は紙を黄色く退色させ、エアコンの乾燥した風は掛け軸に急激な反りやひび割れを発生させます。和室の障子を閉めて直射日光を遮る工夫や、空調の風向きをコントロールすることが、掛け軸の寿命を伸ばす秘訣です。
以上、3つのNG事項を避けて、大切な掛け軸を末長く守っていきましょう。
掛け軸は非常に繊細な和紙や絹布で作られているため、取り扱いには以下の注意が必要です。
・素手で直接本紙(書が書かれている部分)に触れる: 手の油分や汗がシミの原因になります。
・空調の風が直接当たる場所に飾る: 乾燥や急激な温度変化で紙が波打ったり破れたりします。
・直射日光が当たる場所に飾る: 紫外線によって墨が退色したり用紙が黄色く変色したりします。
【実習】掛け軸の正しい掛け方・外し方と保管方法

保管時に湿気でカビをさせてしまったことがあります。
幸い早く気づいて専門の業者の方にお願いしてことなきを得ました。

大切な掛け軸を長く美しく保つためには、正しい巻き方・外し方・保管の手順を守ることが重要です。
掛け軸を傷つけずに床の間へ掛ける正しい手順ー3ステップ
掛け軸を掛けるときの3ステップは、

巻かれた状態の掛け軸の紐(掛緒)を矢筈の先端にひっかける
そのまま矢筈を押し上げて床の間の掛け釘に紐をかける
ゆっくりと両手で軸先を持ちながら下へと広げる
っと、なります。一気に自重で落とすように広げてしまうと、不自然なシワや破れの原因になるため、必ず両手で支えながら慎重に下ろしてください。

掛け軸は床の間の中央に、下端が床から30〜40cmほど離れる高さに飾るとバランス良く見えます。
- 掛ける際は巻いた状態のまま紐をほどき、矢筈(やはず)を使って掛け釘に掛けます。
- 両手でゆっくりと下へ伸ばしていき、巻き緒が巻き込まれないように広げます。
- 外す際は下から優しく巻き上げ、途中で折り目がつかないよう均一な力で巻き取ります。
掛け軸の正しいしまい方ーシワや折れを防ぐ!巻き方と紐の結び方
掛け軸をしまうときは、飾る時と逆の手順で行います。
掛け軸はかけたままで、軸先を持ってゆっくりと上に向かって巻き上げていきます。
左右のバランスに注意し、キツく締めすぎないように注意して、掛け軸の長さの半分ぐらいまで、そのまま柔らかく巻き上げます。
巻いた軸の真ん中を持ち、矢筈を使って掛け軸を自在掛け(釘)から外します。
外した後、風帯を(向かって左側の風帯が下になるように)折りたたんでから、最後まで巻き上げます。この時、ホコリなどがあれば払っておきましょう。
折れやすい古い掛け軸は、桐の太巻芯で太く巻くと折れを防げます。
掛け軸の紐の結び方は、
巻き終えたら、巻緒が当たる部分にあて紙をして、巻緒を手前に巻きます
掛け軸の格に応じて、3・5・7回巻きがありますが、現在は3回が主流なので3回巻きにします
掛緒の右下に巻緒を半折にして通し、通した巻緒の輪を掛緒の左上から通します
左右の巻緒の長さを調節します
巻緒が乱れないように揉み紙に包んで、桐箱に収納します
きつく巻すぎると本体を傷めるため、緩すぎず、きつすぎないよう力加減は慎重に!

湿気や虫食いから守る保管のポイント
掛け軸の正しい保管方は、掛け軸にとって最大の敵の「湿気」と「虫食い」から掛け軸を守ることです。
外した掛け軸は、防虫効果と調湿効果に優れた桐箱に収納するのが最善です。
桐箱と一緒に「タトウ」という紙箱がついている時は、桐箱をその中に収納して保管しておくとさらに良いコンディションで保管できます。

- ナフタリンなどの防虫剤は直接掛け軸に触れないよう箱の隅に置きます。
- 梅雨の時期などは避け、晴天が続いた空気の乾燥している日に風通し(虫干し)を行うと長持ちします。
筆者は「ナフタリン」の匂いが苦手で…。なので、自然な香りの防虫香(お香ですね)を使用しています。桐箱を開けるとほのかな香りがとても心地よいです。
床の間の「書」の掛け軸に関するよくある質問(FAQ)
Q. 季節に合わない書を飾り続けても大丈夫ですか?
できれば季節に応じた掛け替えが望ましいですが、「日日是好日」などの通年飾れる禅語であれば問題ありません。

ただし、あきらかに夏用の「清風」などを冬場に飾り続けるのは避け、通年用の書に差し替えるのがマナーです。
季節の言葉については、こちらの記事も参考に☝️
Q. 現代風の和モダンな部屋にも書の掛け軸は合いますか?
大変よく合います。
現代的なインテリアには、シンプルで太い筆遣いの書や、額装風にデザインされた軸装が馴染みます。

コンクリート打ちっぱなしやフローリングの壁面にアクセントとして一幅の書を飾るスタイルも人気を集めています。
まとめ:床の間に一幅の書を飾って心豊かな空間を作ろう
・言葉の意味や季節感に配慮して掛け軸を選ぶと和の空間がさらに深まる
・正しい扱い方と保管方法を守り、一幅の書を大切に楽しもう
床の間に飾る「書」の掛け軸は、日本の伝統美を感じさせると同時に、住まう人の心を落ち着かせてくれる素晴らしい文化です。
言葉の意味や季節感に配慮しながら選ぶことで、より深く和の空間を楽しむことができます。
まずは通年飾れるお気に入りの禅語から、床の間に迎えてみてはいかがでしょうか。
本日も、最後までお読みいただきありがとうございました。感謝です。
掛け軸は自分でも作れます。詳しくはこちらの記事も参考に☝️









・床の間にふさわしい「禅語」や「吉語」の種類と意味
・四季や行事に合わせた掛け軸の選び方
・初心者でも安心な基本マナーと正しい掛け方・保管方法