こんにちは、絵師の徳田智子です。絵の道に入ってはや半世紀。
自作掛け軸用に描いた「川登りの鯉」です。運気アップ狙っています!

日本人絵師として日本の文化について広く世界に発信していきたいと思い、伝統的な美術品でもある「掛け軸」について「正しい飾り方としまい方」をお伝えします。

実家の片付けで見つかった掛け軸や、譲り受けた大切な掛け軸を床の間に飾りたいけれど、正しい方法が分からず困っていませんか?
掛け軸は扱い方を一歩間違えると、大切な作品にシワやカビ、シミを作ってしまう原因になります。
この記事では、掛け軸を床の間に飾る正しい手順から、傷つけずに長持ちさせるしまい方のコツまで、初心者の方向けに分かりやすく解説します。
格式や季節に合わせたマナー、絶対にやってはいけないタブーも網羅しているため、恥をかかない知識が身につきます。
目次
掛け軸を床の間に飾る前に知っておくべき基礎知識
掛け軸を床の間に飾る前に、まずは最低限知っておきたい基礎知識を押さえておきましょう。
日本の伝統的な和室には、季節や空間を演出するための独自のルールやマナーが存在します。
年中掛けと季節掛け(春夏秋冬)の違い
掛け軸には、一年中飾っておける「年中掛け(ねんじゅうがけ)」と、季節に合わせて掛け替える「季節掛け」があります。
年中掛けには、おめでたい柄の「松竹梅」や「鶴亀」、または仏事や日常的に使える「六字名号(南無阿弥陀仏)」や「和敬清寂」などが選ばれます。

一方の季節掛けは、春なら「桜」、夏なら「朝顔」「滝」、秋なら「紅葉」、冬なら「赤富士」「南天」など、日本の四季折々の美しさを表現した柄を選びます。

筆者としては、季節掛け軸はこれから取り入れていきたい分野でもあります。
空間の性質や風水などを意識して、飾る図柄を選んでみるのも奥深い楽しみ方の一つです。
掛け軸の幅は、床の間の幅の約3分の1がバランスが良いと言われています。
詳しいサイズの選び方についてはこちらの記事もお読みください。
知っておきたい床の間の格式と最低限のマナー
床の間は和室の中で最も格式が高い聖なる場所であり、基本的には家の中で一番良い位置に設けられています。
そのため、床の間の床板(とこいた)に直接座ったり、荷物を乱雑に置いたりすることは大きなマナー違反にあたります。
床の間や掛け軸について、何も知らなかった頃の我が家の床の間。汚い!ダメダメですね!

掛け軸を飾る際も、床の間の格式にふさわしい敬意を持って、丁寧に取り扱うことが大切です。
床の間は「常に清潔で余白を保つ」ことで、空間の格が上がり運気もアップします。
もし、あなたのお家の床の間も、荷物が置かれたり汚れたりした状態だったら大変です。
早速片付けてマナー違反を解消し、運気も上げていきましょう!
花や置物と一緒に飾るときのマナー
掛け軸と花や置物を床の間に飾る際は、「主役(掛け軸)を引き立てるバランス」と「季節感の統一」が基本マナーです。掛け軸が最も格式が高いため、花や置物は引き立て役として控えめに配置し、全体の調和を図ることが大切です。また、掛け軸の前に一輪挿しや香炉を添える「一幅一瓶一台(いっぷく・いっぺい・いちだい)」という基本構成や、「花や置物の影を掛け軸に落とさない」というマナーなど、いろいろあります。
1. 配置の基本ルール
- 主役は掛け軸:掛け軸は床の間の顔です。置物や花器は、掛け軸の表装(絵の周りの裂地)や文字を隠さない背の低いものを選びましょう。
- 三角の構図を作る:掛け軸を頂点とし、床の間に置く花と置物が「左右非対称の三角形」になるように配置すると、奥行きと安定感が生まれます。
- 置き場所の工夫:花と置物を同時に飾る場合、花を「床柱側」、置物を「部屋の側(あるいは手前)」に置くのが基本のバランスです。
2. 花を飾るときのマナー
- 掛け軸と花器のバランス:掛け軸の絵柄(花鳥画など)と同じ花を生けるのは避けます(絵と本物が重複してしまうため)。
- 水漏れ・汚れの防止:花を飾る際は、水滴で床板を傷めないよう必ず花台(花瓶敷き)を使用しましょう。
3. 置物・香炉を飾るときのマナー
- 掛け軸の真下は避ける:掛け軸の真下に主張の強い置物を置くと主役の存在感が薄れてしまいます。少しずらして飾るのがマナーです。
- 季節やテーマを合わせる:例えば、お正月であれば「掛け軸(鶴亀)」+「置物(鏡餅)」のように、テーマや季節感を統一します。
4. やってはいけないタブー(NG例)
- 飾りすぎ:床の間に物をたくさん詰め込むのはマナー違反です。空間の「余白」を意識し、引き算の美学を大切にしましょう。
- 価値観の混在:仏画の掛け軸の前に、おめでたい干支の置物を飾るなど、宗教観や季節感がちぐはぐにならないよう注意が必要です。
【完全図解】掛け軸の正しい飾り方・手順
ここからは、実際に掛け軸を床の間に飾る具体的な手順をステップ形式で解説します。
道具を正しく使い、掛け軸に無理な力をかけないように進めるのがポイントです。
飾るために用意する道具(矢筈・風鎮など)
掛け軸を飾る際には、専用の道具があると非常に便利で、掛け軸を傷つけるリスクを減らせます。
高い位置にある掛け釘に紐をかけるための二股の棒である「矢筈(やはず・竹製の棒)」は必須の道具です。
また、掛け軸の最下部にある軸先(じくさき)に吊るす重りである「風鎮(ふうちん)」を用意すると、風での揺れを防ぎ、掛け軸をまっすぐ美しく見せることができます。

ここで、矢筈の「片口」と「両口」の特徴とメリット・デメリットを紹介します。
| 名称 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 片口(かたくち) 引っ掛けるツメが片方だけのタイプ | 掛け軸の紐をしっかりと受け止めるため、軸を落とす心配が少なく安全。安定感があり、初心者でも扱いやすい | 狙った位置に掛けにくい、掛け軸の紐が細いなど、特定の掛け軸に合わないことがある |
| 両口(りょうくち) 棒の先端の両側にツメがあるタイプ | 左右どちらの向きでも掛け軸を掛けられる | 引っ掛け部分が浅くなることがあり、慣れないと途中で外れて掛け損なうリスクがある |

これから購入するのであれば、安全で扱いやすい片口を選ぶと失敗がありません。
掛け軸を掛ける金具の種類や選び方はこちら
掛け軸を傷つけずに床の間へ掛ける3ステップ
掛け軸を掛けるときの3ステップは、

巻かれた状態の掛け軸の紐(掛緒)を矢筈の先端にひっかける
そのまま矢筈を押し上げて床の間の掛け釘に紐をかける
ゆっくりと両手で軸先を持ちながら下へと広げる
掛け軸は床の間の中央に、下端が床から30〜40cmほど離れる高さに飾るとバランス良く見えます。

掛け軸は自分でも作れます。詳しくはこちらの記事をチェック☝️

一気に自重で落とすように広げてしまうと、不自然なシワや破れの原因になるため、必ず両手で支えながら慎重に下ろしてください。

【独自事例】現代風の和室やリビングに飾る際の工夫
近年では、伝統的な床の間のない住宅や、モダンにリフォームされた和室、あるいは洋間のリビングに掛け軸を飾りたいという需要も増えています。
そうした場合は、専用の「掛け軸スタンド」を活用したり、ピクチャーレールを利用したりすることで、壁を大きく傷つけずに飾ることができます。
友人の家で見かけたこちらのスタンドは、お持ちの掛け軸のサイズに合えばとても見栄えがいいと思います。
また、壁に穴を開けたくない、または賃貸の場合は、石膏ボード用の穴が目立たない「壁掛けフック」を活用するのがおすすめです。
壁に穴を開けたくない場合や、賃貸マンションの場合は、石膏ボード用で取り外し後の穴が目立たない「壁掛けフック」を活用するのがおすすめです。
洋空間に合わせる際は、少し小さめのサイズ(半切幅など)や、抽象的なモダンアート風の掛け軸を選ぶとインテリアに馴染みやすくなります。


掛け軸を長持ちさせる正しいしまい方・保管のコツ
掛け軸を美しい状態で次の世代へと受け継ぐためには、飾り方と同じくらい「しまい方」と「保管環境」が重要になります。
間違った片付け方をすると、わずか数ヶ月で修復不可能なシワやシミができてしまうことがあります。
シワや折れを防ぐ!掛け軸の巻き方と紐の結び方
掛け軸をしまうときは、飾る時と逆の手順で行います。
掛け軸はかけたままで、軸先を持ってゆっくりと上に向かって巻き上げていきます。
左右のバランスに注意し、キツく締めすぎないように注意して、掛け軸の長さの半分ぐらいまで、そのまま柔らかく巻き上げます。
巻いた軸の真ん中を持ち、矢筈を使って掛け軸を自在掛け(釘)から外します。
外した後、風帯を(向かって左側の風体が下になるように)折りたたんでから、最後まで巻き上げます。この時、ホコリなどがあれば払っておきましょう。

折れやすい古い掛け軸は、桐の太巻芯で太く巻くと折れを防げます。

巻き終えたら、掛け軸に付いている紐(巻緒)を作法にそって結びます。
巻緒が当たる部分にあて紙をして、巻緒を手前に巻きます
掛け軸の格に応じて、3・5・7回巻きがありますが、現在は3回が主流なので3回巻きにします
掛緒の右下に巻緒を半折にして通し、通した巻緒の輪を掛緒の左上から通します
左右の巻緒の長さを調節します
巻緒が乱れないように揉み紙に包んで、桐箱に収納します
きつく巻すぎると本体を傷めるため、緩すぎず、きつすぎないよう力加減は慎重に!

桐箱への収め方と防虫剤・除湿剤の注意点
巻き終えた掛け軸は、調湿効果に優れた専用の「桐箱(きりばこ)」に収納するのが最適です。

購入時に桐箱が付属していない場合は、後から購入することもできます。掛け軸のサイズによって桐箱のサイズも変わりますので、ご自身の掛け軸のサイズをよく確かめてからご購入ください。

桐箱に収めるときは、軸枕の広い方へ仰向けに寝かせるのが正しい向きです。
紙製たとう箱(タトウの表記で販売しているサイトが多いです)が付いているものもあり、こちらがあると保管するときに便利です。付属のラベルで、どんな掛け軸を入れていたか一目で見分けられます。


桐箱は外気の湿度変化から掛け軸を守ってくれますが、箱の中に防虫剤を大量に入れすぎるのはNGです。
防虫剤の化学成分が掛け軸の絵の具や染料と反応し、変色やシミを引き起こすケースがあるため、和装用の適切な防虫剤を適量だけ使用します。

【体験談】私がやってしまった掛け軸保管の失敗例
掛け軸の保管でよくある失敗が、長期間しまいっぱなしにすることで発生する「カビ」や「虫食い」です。
特に湿気の多い梅雨時期を過ぎたあとに放置すると、取り返しのつかないダメージを負ってしまうことがあります。
定期的な虫干し(春や秋の乾燥した時期に数日間陰干しすること)を怠った結果、久しぶりに開けたらシミだらけだったという悲しい事例は後を絶ちません。

湿気が多い北側の部屋で保管していた掛け軸の裏面に、茶色いシミが発生!幸いにも発見が早く、専門の業者に対応をお願いしたので事なきを得ましたが、くれぐれも保管方法や保管場所には気をつけてください。
参考までに、専門業者を紹介します。他にも信頼できるお店はありますのでご自身でも検索ください。
床の間に掛け軸を飾る・しまう際の注意点・タブー
掛け軸は非常にデリケートな美術品であり、材質は紙や絹、木、糊などで構成されています。
そのため、日常のちょっとした環境の変化が劣化に直結します。
これだけはNG!掛け軸が傷む絶対やってはいけない扱い方
最もやってはいけないタブーの一つは、掛け軸の表面(絵や書が描かれている部分)を素手でベタベタと触ることです。手の皮脂や水分が紙に付着すると、数年後にそこだけ黒ずんだりカビが発生したりする原因になります。
どうしても触る必要がある場合は、必ず手袋を着用するか、軸先(両端の突き出た部分)だけを持つように徹底してください。

こうして無言のメッセージを伝えることで、大切な作品をさりげなく守ることができます。
飾る場所(日光・エアコンの風)の選び方
床の間の中でも、直射日光が当たる場所や、エアコンの風が直接吹き付ける位置に掛け軸を飾るのは避けてください。
紫外線は紙を黄色く退色させ、エアコンの乾燥した風は掛け軸に急激な反りやひび割れを発生させます。
和室の障子を閉めて直射日光を遮る工夫や、空調の風向きをコントロールすることが、掛け軸の寿命を伸ばす秘訣です。


また、和室のエアコンは床の間から離れた西側の壁に設置して、風が直接的にも間接的にも当たらないように工夫を施しています。
掛け軸の飾り方・しまい方に関するよくある質問(FAQ)
Q. 掛け軸はどのくらいの期間飾りっぱなしにしていいの?
A. 一般的には、同じ掛け軸を飾りっぱなしにするのは最長でも「2〜3ヶ月程度」が目安とされています。
季節の変わり目に合わせて掛け替えるのが理想であり、ずっと掛けたままだと自重で伸びてしまったり、日光による日焼けが進行したりします。
こちらの記事も参考に☝️
Q. 風鎮(ふうちん)は必ず付けなければいけない?
A. 必ずしも必須ではありませんが、風が通る和室などでは掛け軸の揺れやバタつきを抑えるために推奨されています。
ただし、掛け軸の生地(裂地)が非常に薄く繊細な場合、風鎮の重みが負担になって伸びてしまうこともあるため、掛け軸の仕様に合わせて使い分けます。

Q. 汚れてしまったり破れたりした場合はどうすればいい?
A. 決して自己流でセロハンテープを貼ったり、濡れた布で拭いたりしないでください。
シミや破れを見つけた場合は、速やかに専門の表具店や骨董店に相談し、仕立て直し(修復)を依頼するのが唯一の正しい解決策です。

まとめ:正しい飾り方としまい方で掛け軸を大切に受け継ごう
掛け軸は、床の間という空間を豊かに彩るだけでなく、日本の四季の美しさや心の安らぎを与えてくれる素晴らしい文化資産です。
正しい手順で飾り、優しく丁寧にしまう習慣を身につければ、何十年、何百年と美しい状態を保ち続けることができます。
最初は紐の結び方や矢筈の扱いに戸惑うかもしれませんが、一度覚えてしまえば決して難しいことではありません。
ぜひ今回の内容を参考に、大切な掛け軸をご自宅の床の間で楽しんでみてください。

また、掛け軸は自分でも作ることができます。
興味のある方は、こちらもお読みください。
本日は最後までお読みいただきありがとうございました。
感謝です。次の記事でお会いしましょう。









