こんにちは、絵師の徳田智子です。絵の道に入ってはや半世紀。
日本人絵師として日本の文化について広く世界に発信していきたいと思い、伝統的な美術品でもある「掛け軸」についてお伝えしています。
浄土真宗のご自宅に仏壇をお迎えする際、多くの方が悩まれるのが「掛け軸」の選び方です。
浄土真宗と一口に言っても本願寺派(お西)と真宗大谷派(お東)とでは掛け軸の構成や表装が異なり、間違った組み合わせを選んでしまうと、後から買い直しが必要になることもあります。
この記事では、浄土真宗における仏壇の掛け軸の意味や種類、正しい選び方、掛け方、日々のお手入れ、そして古くなった掛け軸の供養・処分方法まで、順を追って詳しく解説します。
読み終える頃には、ご自身の宗派に合った掛け軸を迷わず選べるようになり、日々の礼拝もより心穏やかに行えるようになります。

浄土真宗の仏壇に掛け軸が祀られる理由
この章では、なぜ浄土真宗の仏壇に掛け軸が用いられるのか、その意味と仏像との違いまで踏み込んで解説します。

掛け軸は本尊や祖師を表す大切な存在
仏壇の中央に安置される掛け軸や仏像は、単なる装飾ではありません。
ご本尊そのものを表す、信仰の中心となる存在です。
浄土真宗では、阿弥陀如来を本尊として中央に安置し、その教えをお迎えする形を整えます。

仏像ではなく掛け軸が選ばれることが多い背景
浄土真宗の家庭用仏壇では、仏像よりも掛け軸が選ばれる傾向があります。
理由は明確で、掛け軸は仏像に比べて奥行きを取らず、限られた仏壇内のスペースでも三幅(本尊・左右の脇掛)をバランスよく配置できるからです。
また、掛け軸は表装や大きさの調整がしやすく、仏壇の代数(サイズ規格)に合わせやすいという実務的な利点もあります。
最近のモダン仏壇、ミニ仏壇にもよく合うので、広く選ばれています。モダン仏壇では、背面に面ファスナー(マジックテープ)やマグネットで留めるタイプもあります。お手持ちの仏壇の仕様を確認してから掛け方を選びましょう。

浄土真宗における掛け軸の構成と種類
ここでは、浄土真宗特有の三幅構成の意味と、本願寺派・真宗大谷派それぞれの違い、さらに法名軸との役割の違いまで整理します。
本尊(阿弥陀如来)を中心とした三幅の構成
浄土真宗の掛け軸は、中央に阿弥陀如来を配し、左右に脇侍を配する三幅一組が基本形です。

この三幅構成は、本願寺派・真宗大谷派いずれにも共通する考え方ですが、絵柄や文字の書体、光背の形などに違いが見られます。
本願寺派(お西):中央に阿弥陀如来、向かって右に親鸞聖人、向かって左に蓮如上人
真宗大谷派(お東):中央に阿弥陀如来、向かって右に十字名号、向かって左に九字名号
本願寺派(お西)と真宗大谷派(お東)での違い
本願寺派と真宗大谷派は、いずれも親鸞聖人を宗祖とする浄土真宗の二大宗派ですが、掛け軸の意匠には明確な違いがあります。
本願寺派(お西)のお仏壇

本願寺派(お西)の仏壇として、中央に阿弥陀如来、向かって右に親鸞聖人、向かって左に蓮如上人の三幅の掛け軸を飾る
ご本尊の阿弥陀如来を見分けるいちばん分かりやすい目印は、頭の後ろから放射状に伸びる光(後光)の本数です。
一般的に、本願寺派(お西)は8本、真宗大谷派(お東)は6本で描かれています。
本尊の光背の形状や、脇掛に描かれる祖師像の表現方法が異なるため、購入前には必ずご自身の菩提寺がどちらの宗派に属するかを確認する必要があります。
真宗大谷派(お東)のお仏壇

真宗大谷派(東)では、ご本尊は同じく阿弥陀如来ですが、脇侍には九字名号と十字名号を用います。
九字名号(くじみょうごう)とは、南無不可思議光如来(なむふかしぎこうにょらい)の九文字で、「南無阿弥陀仏」と同じく、人間の知恵では量り知れない(不可思議な)光を放つ阿弥陀如来にすべてを委ねて帰依するという意味です。
また、十字名号(じゅうじみょうごう)とは、帰命尽十方無碍光如来(きみょうじんじっぽうむげこうにょらい)の十文字で、あらゆる方角(十方)を照らし、何の障害(碍)もない光を放つ阿弥陀如来に、わが身を投げ出してすべてをお任せするという意味です。
法名軸との違いと役割
法名軸は、故人の法名(戒名にあたるもの)を記した軸で、本尊や祖師を表す掛け軸とは役割が異なります。
本尊の掛け軸が信仰の中心であるのに対し、法名軸は故人を偲び、仏さまの教えに触れるご縁としてお祀りします。浄土真宗では原則として位牌を用いず、その代わりに法名軸を掛けます。
お祀りするときは、ご本尊より低い位置に掛け、右に両親など近年亡くなった方、左に先祖代々の総法名軸、といった掛け方が一般的ですが、お寺によって違うこともありますので、詳しくは菩提寺にご確認ください。
本願寺派(西)と真宗大谷派(東)で、掛ける向きや表装の紋柄が異なります。
| 項目 | 本願寺派(お西) | 真宗大谷派(お東) |
|---|---|---|
| 掛ける向き | 内側向き | 正面向き |
| 表装の紋柄(例) | 雲桐・矢菱牡丹など | 大谷牡丹など |

表装の柄で派を見分けられるため、購入前に必ずご自身の宗派をご確認ください。法名軸が増えて仏壇に入らなくなった場合は、古いものを丸めて引き出しに保管し、先祖の情報は過去帳へ移して記録するのが一般的です。
浄土真宗の掛け軸の選び方
この章では、実際に掛け軸を選ぶ際に確認すべき3つの基準を、優先順位を付けて解説します。
菩提寺・宗派に合わせて選ぶことが大前提
掛け軸選びで最も重要なのは、デザインの好みよりも先に、ご自身の菩提寺の宗派を確認することです。
本願寺派と真宗大谷派では本尊や脇掛の意匠が異なるため、宗派を誤ると仏事の作法とも合わなくなってしまいます。
判断に迷う場合は、購入前に菩提寺へ直接確認するか、仏壇店の相談窓口を利用するのが確実な方法です。
仏壇のサイズや代(だい)数に合わせて選ぶ
掛け軸には「代」と呼ばれるサイズ規格があり、仏壇の内寸に合わせて選ぶ必要があります。
一般的な家庭用仏壇では50代までの掛け軸が用いられ、床置きタイプの大型仏壇では60代以上のサイズが必要になることもあります。
真宗大谷派(お東)の仏壇


表装や素材による価格帯の違い
掛け軸は表装の素材や仕立てによって価格帯が大きく異なります。

一般的に、絹本(けんぽん)や上質な表装生地を用いたものほど価格が高くなり、普及品には合成素材や紙表装が使われる傾向があります。
例として、20代のお仏壇用掛け軸で価格を比較しました。 浄土真宗本願寺派(お西) の販売例をまとめます。
| 商品・仕立て | 1幅の価格 | 3幅そろえた場合 |
|---|---|---|
| 比較的手頃なタイプ | 1,980円 | 5,940円 |
| 上新金・標準タイプ | 2,420円 | 7,260円 |
| 高級掛軸・西陣どんすを使用した高級タイプ | 8,080円 | 24,240円 |
| 表装の見栄えを重視した上位タイプ | 13,200円 | 39,600円 |
| 高級志向タイプ | 24,200円 | 72,600円 |
掛け軸の表装について詳しくはこちらの記事も☝️
手描きと印刷の違いと見分け方
また、本紙(仏さまが描かれている部分)が「手描き(肉筆)」か「印刷」かの違いも大きいです。
見分け方のポイントの一つは、絵の具の盛り上がりを見ましょう。手描きは斜めから光を当てると、輪郭線(金泥など)や岩絵の具の厚みで、表面にわずかな凹凸や立体感が見られます。印刷は、表面が完全にフラット(平ら)で、ツルツルしています。
もう一つは、線の「かすれ」や「にじみ」を見ることでも見分けがつきます。手描きは、職人の筆遣いによる、自然な線の強弱、かすれ、墨のニュアンスがあります。一方、印刷は、拡大鏡(ルーペ)で見ると、細かいドット(網点)で表現されていたり、線が均一すぎて機械的だったりします。

参考に、違いを一覧にしました。
| 項目 | 手描き(肉筆) | 印刷(工芸・プリント) |
|---|---|---|
| 製法 | 絵仏師や職人が、筆で直接絹本や紙に描く。 | デジタル技術やシルクスクリーンで複製する。 |
| 質感・立体感 | 絵の具の厚み、墨の濃淡、金箔の立体感がある。 | 表面が平滑で、均一な仕上がりになる。 |
| 希少性と価値 | 世界に一点のみ。宗教的・芸術的価値が高い。 | 大量生産が可能。価格がリーズナブル。 |
| 経年変化 | 時間とともに味わい深い「気品」や「風格」が出る。 | 紫外線などで色あせ(退色)しやすい。 |
| 価格帯 | 高価(数万円〜数十万円以上)。 | 安価(数千円〜数万円程度)。 |
手描きの本尊様は、代々受け継ぐ家宝としての価値があります。しかしながら、お値段もします。
最近の印刷技術(高級美術印刷など)は、非常に精巧になっており、予算や用途に合わせて選ばれているのが現状です。
掛け軸の正しい掛け方と安置する位置
ここでは、三幅の掛け軸を仏壇内のどこに、どの順序で掛けるべきかを具体的に解説します。
中央・左右の掛け方のルール
浄土真宗の三幅構成では、三幅一組という形と中央に本尊(阿弥陀如来)を安置することは共通ですが、脇掛の内容は宗派によって異なります。
本願寺派(お西)は、向かって右に親鸞聖人、左に蓮如上人を配置します。真宗大谷派(お東)は、向かって右に十字名号、向かって左に九字名号を配置します。
この左右の配置は宗派の教えに基づく決まりごとであるため、自己判断で入れ替えることは避けてください。
ご本尊は最上段の中心に、脇侍は左右に並べて掛けます。掛け軸は、お仏壇の最上段に安置するのが基本です。
お仏壇の掛け軸は、上部の紐を専用の掛軸台(スタンド)に掛けて立てるか、お仏壇の裏板に「宗派専用の押しピン」で留めて掛けます。

お仏壇に掛けるための金具が付いていれば、そのまま掛けて問題ありません。
仏壇の中でのバランスの取り方
掛け軸を仏壇内に安置する際は、三幅の高さや位置がそろっているかを確認しながら掛けることが大切です。
左右の脇掛が本尊よりも高い位置に来てしまうと、視覚的なバランスだけでなく、本尊を中心に据えるという本来の意味も崩れてしまいます。

ご本尊様が一番高く、脇侍は一段低く飾ります。
掛け軸の日常のお手入れと保管方法
この章では、掛け軸を長く良い状態で保つための日常的なお手入れ方法と、避けるべき保管環境について解説します。
普段のお手入れの基本
掛け軸のお手入れは、乾いた柔らかい布や専用のはたきでほこりを軽く払う程度にとどめます。

水拭きや洗剤の使用は厳禁です。
掛け軸の絵具や金箔部分は水分や摩擦に弱く、一度傷むと修復が難しいため、力を入れて拭き取ることは絶対に避けてください。
掛け軸の保管については、こちらの記事も参考に☝️
しかし実際に、カビ、シミや破れ、表装の傷みが出たときは、すぐに処分せずに、仏壇店や表具店に修理・仕立て直しができないか相談してください。
修理や仕立て直しに出すときも、お預けする前と戻ってきたときに、菩提寺に相談してお勤めをお願いするのが一般的です。

わからないときは、菩提寺にご相談されるのが一番です。
カビや変色を防ぐための注意点
掛け軸は湿気に弱く、湿度の高い環境では表装部分にカビが発生することがあります。
仏壇を設置する部屋の換気を定期的に行い、湿気がこもらないようにすることが、掛け軸を長持ちさせる基本になります。
お手入れの時は、白手袋をはめて羽はたきを使用するといいですね。綺麗な雑巾もあると汚れをさっと拭き取れます。

古い掛け軸の供養と処分の方法
ここでは、代替わりや買い替えで不要になった掛け軸を、どのように供養し手放すべきかを具体的に説明します。
菩提寺やお焚き上げでの供養
本尊を表す掛け軸は、単なる不用品として処分することはできません。

菩提寺に依頼して遷仏法要(他の宗派でいう閉眼供養)を勤めていただいた後、お焚き上げなどの方法で丁重に手放すのが一般的な流れです。
最近は防災や環境への配慮から、お焚き上げを行っていないお寺もあります。事前に菩提寺へ確認しておきましょう。
仏壇店や専門業者に依頼する方法
菩提寺との付き合いがない場合や、供養の手配が難しい場合は、仏壇を取り扱う専門業者に相談する方法もあります。
多くの仏壇店では、古い仏具や掛け軸の引き取り・供養手配を行うサービスを提供しています。
参考に全国展開の仏具店の情報をお伝えします。
- 菩提寺に連絡し、遷仏法要の日程を相談する
- 供養後、お焚き上げまたは業者への引き渡しを行う
- 新しい掛け軸を迎える場合は、入仏法要(入仏式)もあわせて依頼する
お寺によって呼び方が少し違うこともあるので、詳しくは菩提寺にご確認ください。
浄土真宗の仏壇の掛け軸に関するよくある質問
仏像と掛け軸はどちらを選んでもよいのか
浄土真宗では、仏像・掛け軸のどちらを本尊として選んでも教義上の問題はありません。

ただし、家庭用仏壇の限られたスペースでは、奥行きを取らない掛け軸の方が配置しやすいという実務的な理由から選ばれる傾向にあります。
掛け軸のサイズが仏壇に合わない場合はどうするか
掛け軸のサイズが仏壇の内寸に合わない場合は、無理に取り付けず、仏壇店に相談してサイズの合う代(だい)の掛け軸に交換することをおすすめします。
交換に応じてくれない場合もありますので、必ず「仏壇のサイズを計測」してから購入してください。
また、代々受け継いできた掛け軸の場合は、表具店や仏壇店で「表装を仕立て直し」してもらい、新しい仏壇に合う大きさにする方法もあります。
掛け軸は自分で購入してもよいのか
掛け軸は仏壇店やオンラインでも購入可能ですが、浄土真宗は本願寺派・真宗大谷派で意匠が異なるため、購入前に必ず菩提寺の宗派を確認することが失敗を防ぐポイントです。
引っ越しや仏壇の買い替えで、掛け軸を新しい仏壇に移すときも法要は必要?
菩提寺に相談し、お勤めをお願いするのが一般的です。呼び方は宗派やお寺によって異なるので、まずは菩提寺に確認しましょう。
まとめ|浄土真宗の掛け軸は宗派の教えを映す大切な存在
浄土真宗の仏壇における掛け軸は、単なる装飾品ではなく、本尊や宗祖の教えを日々の生活の中で映し出す大切な存在です。
宗派・サイズ・表装という3つの基準を踏まえて選び、正しい掛け方とお手入れを続けることで、掛け軸は長く仏壇の中心であり続けます。
- 浄土真宗の掛け軸は中央に本尊を配する三幅構成が基本。脇掛は本願寺派(お西)が右に親鸞聖人・左に蓮如上人、真宗大谷派(お東)が右に十字名号・左に九字名号
- 本願寺派(お西)と真宗大谷派(お東)で意匠が異なるため、菩提寺の宗派確認が必須
- お手入れは乾拭きのみ、水拭きや直射日光は厳禁
- 不要になった掛け軸は菩提寺での供養を経てから手放す
若い頃は「実家のことだから関係ない」と無関心でも平気だったかもしれませんが、ある程度の年齢になり「実家を引き継ぐ」ようになってきて、宗派についてや菩提寺についてもわからないことが多いのではないでしょうか。どの宗派もそうですが、ある程度、決まりに従ってお祀りしていく必要があります。特に浄土真宗は独自の決まりがあり、守らなければならないことがはっきりしています。
菩提寺の住職や専門の仏具店によく聞いて、守らなければならないことを押さえて、失敗しないように気をつけましょう。くれぐれも、先走って購入したりせず、じっくり検討してから、ご自身の宗派、予算等に合う本尊掛け軸をご購入ください。
他の宗派に興味がある方は、こちらの記事を参考に☝️
お盆の掛け軸に興味のある方はこちらの記事も☝️
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。感謝です。













