こんにちは、絵師の徳田智子です。
絵の道に入ってはや半世紀。
日本人絵師として日本の文化について広く世界に発信していきたいと思い、伝統的な美術品でもある「掛け軸」についてお伝えしています。
実家のリノベーションや和室の模様替えを進める中で、「床の間に掛け軸を2本並べて飾ってもいいのかな?」と疑問に思ったことはありませんか?
本来、掛け軸は1本で飾るイメージが強いですが、正しいルールやマナーさえ押さえれば、2本並べて飾ることはまったく問題ありません。
むしろ、2本飾ることで空間に奥行きと華やかさが生まれ、モダンでおしゃれなインテリアに仕上げることができます。
この記事では、掛け軸を2本並べる際の基本ルールから、失敗しない位置関係、初心者でも簡単にできる掛け方・保管方法までわかりやすく解説します。
二本掛けの効果: 昇りと降りを対(つい)にすることで、気の循環や陰陽の調和が整うとされています。

龍の掛け軸について詳しくは、こちらの記事を☝️
床の間に掛け軸を2本飾るのはマナー違反?基本ルールを解説
「床の間に掛け軸を2本同時に掛けるのはマナー違反なのでは?」と不安に思う方も多いでしょう。
結論から言うと、掛け軸を2本並べることは決してマナー違反ではなく、伝統的な飾りの様式として確立されています。
ただし、どんな掛け軸でも適当に2本並べて良いわけではなく、いくつかの基本ルールが存在します。
まずは2本並べる形式の名称や、場面に応じたルールの違いをしっかりと把握しておきましょう。
掛け軸を2本並べる「双幅・対幅・連幅」とは?
掛け軸を2本並べて飾る様式には、主に「双幅(そうふく)」や「対幅(ついふく)」、「連幅(れんぷく)」と呼ばれる形式があります。
双幅や対幅は、最初から2本で1組セットとして作られた掛け軸のことを指します。
例えば、右側に「鶴」、左側に「亀」が描かれた絵柄や、左右で対になる和歌や書がこれに該当します。
一方、別々に作られた2本の掛け軸を意図的に並べて飾ることを「連幅」と呼ぶことがあります。
この時、山水と花鳥、季節の対など、画題や色調を揃えると2本並べたときに統一感が出ます。
・双幅・対幅:初めから2本で一つの作品・テーマとして作られた掛け軸。
・連幅:別々に制作された2本の掛け軸を、意図やテーマを合わせて同時に並べて飾る方法。


実家にある「双幅の鶴亀」を飾ってみました。掛け軸について学ぶうちに「床の間のサイズに掛け軸のサイズが合うように調整する」ことが大切と知りました。
参考までに:掛け軸の主な各部名称

慶事や法要など場面による2本掛けの違い
掛け軸を2本並べる際は、その場の「目的」や「格」に合わせた組み合わせを選ぶことが重要です。
お祝い事(慶事)の席では、鶴亀や松竹梅、日の出といった縁起の良い絵柄の双幅を飾るのが一般的です。
一方で、法要や法事の際には、ご本尊の掛け軸を中心に、脇侍(わきじ)と呼ばれる掛け軸を並べる組み合わせが用いられます。
日常的に飾る場合であっても、あまりに季節感やテーマがかけ離れた2本を並べると、ちぐはぐな印象になってしまうため注意が必要です。


失敗しない!掛け軸を2本並べる際の位置と左右のバランス
掛け軸を2本並べて美しく見せるためには、設置する「位置」と「バランス」が極めて重要になります。
床の間には「上座(かみざ)」と「下座(しもざ)」の概念があり、どちらにどの掛け軸を掛けるかが決まっています。
また、2本の高さや間隔が不揃いだと、空間全体が雑多で落ち着かない印象になってしまいます。
ここでは、失敗しないための配置ルールと、綺麗に見せる黄金比率について解説します。
左右の位置関係(上座・下座と主従のルール)
床の間に掛け軸を2本並べる場合、向かって「右側」が上座(上位)となり、「左側」が下座(下位)となります。
そのため、2本の掛け軸に「主」と「従」の関係がある場合は、より格の高いものや主となるものを右側に掛けます。
例えば、人物と風景であれば人物を右に、あるいは文字(書)と絵であれば書を右に配置するのが基本のルールです。

対幅(ペアの掛け軸)の場合も、見つめ合う構図であれば「右向きの柄を左に、左向きの柄を右に」配置して向かい合わせにするなど、細かな約束事があります。
日本の伝統的な床の間では「向かって右側が上座」となります。2本の主従関係や絵柄の向き(対面させる配置など)を間違えないよう注意しましょう。


実は、先ほど褒められた掛け軸と床の間の空間でしたが、お正月に、初めて自分が掛け軸をかけた時、父から「左右が逆だ!」っと叱られたんです。
本当は、鶴は向かって右、亀が向かって左だったんです。トホホです…。
それで、掛け軸のことを少し勉強して、掛け軸のサイズも床の間にあったサイズに表装し直したり、壁面もD.I.Y.で漆喰風のリメイクも施してモダンに明るくしたんですよね。
掛け軸のサイズや飾り方についてはこちらの記事も参考に☝️
床の間のリノベーションについてはこちらの記事も参考に☝️
高さと間隔を綺麗に見せる黄金比率
掛け軸1本あたりの幅は、床の間の間口の約3分の1が基本の目安です。2本並べる場合は、この目安をベースに軸と軸・壁端の余白を均等に割るときれいに見えます。
2本の掛け軸を並べる際は、高さと横の間隔のバランスも意識しましょう。
基本的には、2本の掛け軸の「下端(軸先)」の高さをぴったりと揃えるのが、空間を美しく見せるコツです。

横の間隔については、床の間の横幅を均等に割るように配置し、壁端と軸、軸と軸の間隔が自然な比率になるよう調整します。
長さや太さが異なる掛け軸をあえて並べる場合は、全体の中心線が水平になるよう調整すると視覚的な安定感が生まれます。
・床の間の横幅を等分し、両端と中央の余白のバランスを均等に保つ
建て替え前の実家の床の間は「一間(いっけん)」でサイズは、幅が約180cm(6尺)、奥行きが約90cm(3尺)。
2本同時に掛ける時は、壁に直接、鋲を打たなくてはいけないので、打った跡が残りにくい金具を使いました。
金具について詳しくはこちらの記事も☝️
「下端(軸先)」の高さを揃えることは、結構、難易度が高く、苦労しました。最終的には同じ定規を2本用意して、高さを調整しました。

やってはいけない!床の間の掛け軸2本掛けでのNG例
床の間に2本並べる際、ルールを知らずに飾ってしまうと、見た目が損なわれるだけでなくマナー違反になることもあります。
ここでは、特に初心者が陥りがちな「やってはいけないNG例」を2つご紹介します。
事前にNG例を知っておくことで、チグハグで残念な印象になるのを防ぐことができます。
床の間に飾る前に、手持ちの掛け軸の組み合わせをしっかりチェックしておきましょう。
落款や書体のアンバランス
落款(かっかん・作者の印鑑やサイン)や、描かれている書体が極端に不揃いな組み合わせは避けるのが無難です。
例えば、一方が非常に重厚な草書体の書で、もう一方が可愛らしい現代的なイラスト風の絵だと、空間の統一感が失われてしまいます。
また、作者の格(有名作家と素人の作品など)があまりに離れすぎている場合も、並べて飾るとアンバランスさが目立ってしまいます。
2本並べる際は、作品の「雰囲気」や「格」、「筆タッチ」が同等程度のものを選ぶのが失敗しないポイントです。
重厚な毛筆書とポップなイラスト絵、または作家の格があまりに異なる掛け軸を組み合わせると、空間の調和が崩れてしまいます。

「楷書」と「草書」の並べ掛けで
片方は一画一画がカチッとした硬い「楷書」、もう片方は流れるような崩し字の「草書」を並べた時のことです。

全体の線の太さや文字の重心が違いすぎて、視線が左右に激しく揺さぶられ、落ち着かない床の間になってしまいました。
解決策:中央に「花」をいける
今回は、2本の掛け軸のちょうど真ん中に、ダンドウツツジ(ガラス花器も大きめのものに変更)を移動させ、左側のダウンライトを暗くしました。
これで、視線がまず中央に集まり、そこから左右の書へ自然に流れるため、楷書と草書の直接の衝突を和らげることができました。

いかがですか?スッキリしましたよね。
季節感や格の異なる掛け軸の組み合わせ
異なる季節のモチーフを同時に飾るのも、掛け軸の鑑賞においては大きなNGとされています。
例えば、右側に「春の桜」、左側に「秋の紅葉」を並べてしまうと、季節感が崩れて風情が損なわれてしまいます。
同じような花鳥画だったので「これはいい」と掛けたのですが。母から「春と秋は一緒に掛けない」と言われて…。

チグハグにならないための対策として、無難な「山水画」に掛け替えました。

また、一方が格式高い神道の掛け軸で、もう一方がカジュアルな日常使いの絵柄といった「格の違い」も違和感の原因になります。
2本並べる際は、同じ季節の植物や生き物、あるいは通年飾れる共通のテーマ(風景や抽象柄など)で揃えるようにしましょう。
初心者に必須!2本の掛け軸の正しい掛け方・外し方とお手入れ
掛け軸は非常に繊細な紙や絹、布で作られているため、取り扱いには丁寧さが求められます。
特に初心者の方が自己流で掛けたり外したりすると、本紙にシワや折れ目がついてしまう原因になります。
ここでは、掛け軸を傷めずに扱うための正しい手順と、長持ちさせるための保管・虫害対策を解説します。
正しく取り扱って、大切な掛け軸を末永く綺麗な状態で保ちましょう。
矢筈(やはず)を使った失敗しない掛け方・外し方
掛け軸を掛けたり外したりする際は、「矢筈(やはず)」と呼ばれる専用のY字型の道具を使用します。
矢筈についても初心者だったので、使いやすいと言われている片口(かたくち)と呼ばれているものを購入して使用しました。初めてでも簡単に使用できてよかったです。作業の時は、白手袋をして皮脂をつけないように気をつけました。

掛ける時は、まず床の上で掛け軸を少しだけ解き、掛緒(かけお)に矢筈を引っ掛けて床の間のフック(軸釘)に掛けます。

その後、両手でゆっくりと軸先を持って下へ巻き下ろしていくのが正しい手順です。

外す際はこの逆の順序で行い、決して強く引っ張ったり、高い位置から急に巻き降ろしたりしないよう注意してください。

長持ちさせる正しい保管方法と虫害対策
掛け軸を外した後は、正しく巻き上げて桐箱などの専用の箱に保管します。
上:タトウ(桐箱)を入れます 下:桐箱(掛け軸をしまいます)

巻く際は強く締めすぎず、ふんわりと優しく巻き上げることがシワを防ぐ秘訣です。

また、掛け軸の天敵である「湿気」と「虫(シミトリなど)」を防ぐため、保管場所は風通しの良い高所を選びましょう。
桐箱の中には、掛け軸専用の防虫剤を入れておき、年に1〜2回(春と秋の乾燥した時期)に「虫干し」を行うと長持ちします。
・力を入れずふんわり優しく巻き上げる
・湿気を避けるため桐箱+専用防虫剤を使用する
・春と秋の晴天日に年1〜2回の「虫干し」を実施する
掛け軸の保管でよくある失敗が、長期間しまいっぱなしにすることで発生する「カビ」や「虫食い」です。
特に湿気の多い梅雨時期を過ぎたあとに放置すると、取り返しのつかないダメージを負ってしまうことがあります。
定期的な虫干し(春や秋の乾燥した時期に数日間陰干しすること)を怠った結果、久しぶりに開けたらシミだらけだったという悲しい事例は後を絶ちません。
何を隠そう、筆者もやってしまいました。
湿気が多い部屋で保管していた掛け軸の裏面に、茶色いシミが発生!幸いにも発見が早く、専門の業者に対応をお願いしたので事なきを得ましたが、くれぐれも保管方法や保管場所には気をつけてください。

参考に専門業者をお伝えします。他にも信頼できる業者さんがたくさんありますので、ご自身でも探してください。
実家の床の間をおしゃれに!30代から始めるモダンな2本飾り
「実家の古い和室や床の間を、30代の今の感覚に合わせた、おしゃれな空間にリノベーションしたい」という方も増えています。
敷居が高いと感じられがちな掛け軸ですが、選び方や見せ方を少し工夫するだけで、現代のインテリアに完璧にマッチします。
ここでは、伝統を守りつつもモダンで洗練された印象を作るためのポイントをご紹介します。
古臭さを感じさせない、スタイリッシュな床の間空間を目指しましょう。
現代風和室・リノベ空間に馴染む「掛け軸」の選び方
リノベーションした現代風の和室や和モダンな空間には、淡い色合いやシンプルなデザインの掛け軸がよく映えます。
伝統的なコテコテの日本画だけでなく、北欧風のテキスタイルを軸装(じくそう)したものや、モダンな抽象画、シンプルな一文字の書などがおすすめです。
また、表装(掛け軸の周りの布地)にモダンな生地や無地の麻素材などが使われているものを選ぶと、洋間続きの和室にも自然に馴染みます。
2本並べる際も、同じトーンのアートパネル感覚で飾ることで、一気におしゃれなギャラリー風の空間に生まれ変わります。
北欧デザインの幾何学模様のタペストリーを軸装。色違いで、2本用。どちらも落ち着いたトーンで和室にもしっくり。


インテリアと調和させる照明や小物の配置
掛け軸を飾る床の間全体をプロデュースするために、照明や周りの小物にもこだわりましょう。
床の間の中にダウンライトやスポットライト(温かみのある電球色)を設置すると、掛け軸が立体的に浮かび上がり、ホテルライクな雰囲気を演出できます。
また、掛け軸の下には背の低い花瓶やモダンな香炉、観葉植物などを控えめに配置すると、2本掛けの高さと奥行きが引き立ちます。
小物を置きすぎず「余白の美」を意識することが、スッキリとおしゃれに見せる最大のコツです。
・観葉植物や一輪挿しなど背の低い小物を添えて「余白」を生かす
・小物や花を飾る際に、その影が本紙(絵柄の部分)にかからないように気をつける
最近は「ダンドウツツジ」が人気でお店でも手に入りやすくなっています。これを「ガラスの花器」に何気なく入れるだけで本当に様になるんですよね。和の床の間にも洋の空間にもマッチする優れものです。

床の間の掛け軸2本掛けに関するよくある質問(FAQ)
Q1. サイズ(長さや幅)が違う掛け軸を2本並べても大丈夫ですか?
A. 基本的には幅や長さが揃っているものを並べるのが最も美しいですが、サイズが異なる場合でも工夫次第で飾ることができます。
その場合は、中心のバランスをとったり、吊るすフックの高さを微調整して、全体の重心が綺麗に見えるよう調整してください。
「下端(軸先)」の高さを揃えれば美しく見えます

Q2. 賃貸やリノベ後の壁で、軸釘(フック)が無い場合はどうすればいいですか?
A. 壁に大きな穴を開けられない場合は、市販の「ピクチャーレール」を取り付けたり、目立ちにくい細ピンタイプのフックを使用するのがおすすめです。
また、スタンド型の掛け軸掛け(軸掛けスタンド)を使用する方法もあります。
掛け軸の金具について、詳しくはこちらの記事も☝️
Q3. 洋室(リビング)の壁に掛け軸を2本飾ってもおかしくないですか?
A. まったく問題ありません。
最近では「和モダンインテリア」として、アクセントクロスを貼った洋室の壁に掛け軸を2本飾るスタイルが人気です。
フレーム感覚で飾れる短めの掛け軸(デザイン軸)を選ぶと、洋風の家具とも良く合います。

まとめ:ルールと基本を押さえて理想の床の間空間を作ろう
床の間に掛け軸を2本並べて飾ることは、ルールやマナーさえしっかり押さえれば、決して難しいことではありません。
・季節感や作品の格(テーマ)を揃えてNG例を避ける
・矢筈を使った正しい掛け方・外し方と桐箱での適切な保管を心がける
・モダンな表装や照明を活用して、リノベ空間に馴染ませる
床の間の龍の掛け軸については、こちらの記事も☝️
床の間に飾る季節の掛け軸についてはこちらの記事を☝️
これらのポイントを意識するだけで、実家の床の間が見違えるようにおしゃれで落ち着く空間へと生まれ変わります。
ぜひ本記事を参考に、お気に入りの掛け軸2本を素敵に飾って、自分だけの理想の和モダン空間を楽しんでくださいね。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
感謝です。

















・左右の位置関係(上座・下座)や見栄えを良くする高さ・間隔の黄金比率
・失敗しないための2本掛けのNG例(季節感や書体のミスマッチ)
・矢筈(やはず)を使った初心者向けの正しい掛け方・外し方と保管方法
・リノベーションした和室やモダン空間におしゃれに馴染ませるインテリアのコツ