こんにちは、絵師の徳田智子です。絵の道に入って早半世紀となります。日本人絵師として日本の文化について広く世界に発信していきたいと思い、伝統的な美術品でもある「掛け軸」についてお伝えします。
自作掛け軸:白龍と青龍、部分。床の間は家の中で最も格式の高い空間であり、そこに龍を飾ることで、家内安全や運気上昇(特に金運や仕事運)を招き縁起が良くなると言われています。龍の掛け軸を配置することで、空間の守護神としてのパワーが最大限に引き出されます。

実家をリノベーションする際、和室にある床の間や掛け軸をどうすべきか悩む方は少なくありません。これらが持つ本来の意味や役割を知ることで、残すか処分するかの正しい判断ができるようになります。
この記事では、床の間と掛け軸の歴史的な意味から、現代のライフスタイルに合わせたリノベーションの選択肢、さらには和モダンな空間に調和する飾り方のマナーまでを分かりやすく解説します。大切な実家の歴史を活かしつつ、快適でオシャレな住まいへと再生するための具体的なヒントが満載です。

そもそも和室の「床の間」と「掛け軸」が持つ本来の意味とは?
- 床の間の歴史的背景と格式高い役割
- 掛け軸が持つ「おもてなしの心」と精神的な意味
床の間は神聖な場所?歴史から紐解くその役割
床の間は、日本の伝統的な家屋において最も格式が高いとされる神聖な空間です。その起源は室町時代の「書院造り」にあり、元々は高貴な人をもてなすための座敷に設けられた段差が始まりとされています。

室町時代に発展した日本の室内の様式で、現代の和室の原型となった建築スタイルです。
時代が流れるにつれて、一般の家庭でも神仏を祀る場所や、高価な美術品を飾って客人を迎える最高のおもてなしの空間へと変化していきました。実家の床の間は、家族の歴史や格式を守り続けてきた大切な場所であると言えます。

掛け軸を飾る意味とおもてなしの心
床の間に掛け軸を飾る最大の意味は、その部屋に招き入れる「客人へのおもてなしの心」を表現することにあります。掛け軸に描かれた絵や書は、その時々の季節感や、お祝い事といった主人のメッセージを無言で伝える役割を持っています。
また、掛け軸には家全体の運気を高めたり、邪気を払ったりするという精神的な意味合いも込められていました。単なるインテリアではなく、訪れる人への敬意や家族の願いが込められた日本固有の美しい文化です。


実家のリノベーションも「床の間と掛け軸の意味」を踏まえて選択
- 伝統を活かして現代風に再生する「和モダン」の魅力
- クローゼットや洋室へ変更するライフスタイル優先の選択肢
【選択肢1】伝統を残してモダンに再生する「和モダン」の魅力
床の間や掛け軸の持つ歴史を完全に無くしてしまうのではなく、現代風のデザインと融合させる「和モダン」へのリノベーションが人気を集めています。例えば、床の間の輪郭を残したまま背景の壁紙をアクセントクロスに変えたり、間接照明を設置したりする方法です。
床の間の壁を明るいアイボリー色の壁紙に変更。実家の床の間は、北向きなのでラッキーカラーの一つは「アイボリー色」。間接照明に変えてグッとモダンになりました。

このようにアレンジすることで、古い掛け軸を飾っても古臭く見えず、現代の家具とも調和する洗練された空間が誕生します。実家の思い出や伝統を次の世代へ受け継ぎたいと考えている方に、非常におすすめの選択肢です。

【選択肢2】ライフスタイルに合わせてクローゼットや洋室へ変更する
現在のライフスタイルにおいて和室や床の間を維持することが難しい場合は、思い切って洋室や収納スペースへ変更するのも一つの手です。床の間があったスペースは奥行きと強度があるため、大容量のクローゼットや書斎デスクの設置スペースとして最適に活用できます。
畳はフローリングにしてオープンクローゼットにする案です。

生活の利便性を最優先にするリノベーションは、これからの暮らしを快適にするための前向きな選択と言えます。その場合、役割を終えた掛け軸は無理に処分せず、専門の業者に買い取ってもらうか、お寺で供養してもらう方法を検討しましょう。
床の間の掛け軸の種類と意味|年中掛け・季節掛け・行事掛け
- 通年で飾れる「年中掛け」と四季を楽しむ「季節掛け」の違い
- 冠婚葬祭や法要の際に用いる「行事掛け」の役割
1年中飾れる「年中掛け」と季節を楽しむ「季節掛け」
掛け軸には様々な種類がありますが、大きく分けると年間を通して飾れるものと、特定の季節に合わせて掛け替えるものがあります。「年中掛け」と呼ばれるものは、山水画や四君子(竹や梅など)が描かれており、季節を問わずいつでも飾れるのが特徴です。

一方で「季節掛け」は、春の桜、夏の鮎、秋の紅葉、冬の雪景色など、日本の美しい四季を部屋の中に居ながらにして楽しむためのものです。リノベーション後の空間に季節ごとの彩りを添えたい場合は、季節掛けをいくつか用意しておくと暮らしが豊かになります。
また、季節の掛け軸のかけ替えのコツは「いつ掛けて、いつ外すか」です。掛け軸は”先取り”が粋とされ、実際の季節より半月から1ヶ月ほど早めに掛けるのが目安です。少し気配りが必要です。詳しくはこちらの記事も参考にしてください。
お祝い事や弔事の際に掛け替える「行事掛け」
日常的に飾るものとは別に、家族の特別なイベントや冠婚葬祭のタイミングで飾る「行事掛け(祝儀掛け・仏事掛け)」も存在します。お正月や結婚式などのめでたい席には、鶴亀や高砂、旭日などが描かれた縁起の良い掛け軸を飾ります。

逆に、法要や命日などの仏事の際には、名号(南無阿弥陀仏など)や仏画が描かれた掛け軸を飾り、故人を偲びます。実家の片付けの際にこれらの掛け軸が見つかった場合は、それぞれの持つ役割を理解して適切に分類しておくことが大切です。
掛け軸の選び方について詳しくは、やはりこちらをどうぞ☝️
床の間に飾る掛け軸の絵柄が持つ意味【龍・鯉・山水】
床の間の掛け軸に描かれる絵柄は、季節の移り変わりだけでなく、招福、健康長寿、厄除けなど、家族の幸せや願いを象徴する深い意味を持っています。ここに代表的な図柄の意味を説明していきます。
龍:家内安全・運気上昇(金運・仕事運)
中国の伝説上の神獣であり、最上級の幸運 や厄除け、家内安全を象徴します。その天に昇る姿から立身出世や飛躍を願う縁起物として、特に大切にされています。風水の観点から、龍の掛け軸は家の東の方角に飾ると特に運気が高まると言われています。また、干支の「辰(たつ)」にあたる年や、新築祝い、お子様の誕生祝いなどの慶事にもふさわしい画題です。
龍はその絵柄によって意味合いが少しずつ変わります。
- 昇り龍(昇龍):天に向かって昇っていく姿は、立身出世や運気上昇を象徴します。仕事運や成功を願う際に非常に適した絵柄です。
- 龍と宝珠(如意宝珠):龍が燃えるような宝玉(如意宝珠)を掴んでいる姿は、財運招福や願いが叶うことを意味します。金運を高めたい方に好まれます。
- 龍と虎(龍虎図):風水において龍と虎は対の存在です。天の「龍」と地の「虎」が並ぶことで力の均衡を保ち、家内安全、魔除け、悪災を追い払うという意味が込められています。
- 龍と富士山(赤富士昇龍図など):縁起が良いとされる「富士山」と「龍」の組み合わせは、最強の開運図とされています。強運をもたらし、あらゆる災いから家族や家を守るという意味があります。
昇り龍をイメージして制作。神話の四聖獣農地の青龍をベースにしています。仕事運アップ、運気上昇の願いを込めて。

鯉の滝登り(昇鯉):出世・立身出世・金運
床の間に飾る「鯉の滝登り(昇鯉)」の掛け軸は、立身出世、商売繁盛、そして開運祈願の強い願いが込められた縁起の良い絵柄です。中国の故事「登竜門」に由来し、激流を登り切った鯉が龍に化すという伝承から、困難を乗り越えて成功を掴む象徴とされています。
筆者の自宅の床の間は北側にあるので、風水の北側のラッキーカラーの落ち着いたピンクとアイボリーで掛け軸の台座を制作。鯉の滝登りをイメージしたオリジナル水彩画を色紙に描写、これも北側のラッキーカラーのワインレッドのマットとピンクの額縁に納めビシッと決めました。

自作掛け軸の詳しい記事はこちら⬇️
山水画・四君子
山水画も四君子も、特定の季節を問わず「年中掛け」として重宝されています。
筆者の少しキレイになった床の間です。北側の床の間にこれもぴったりの山水画(水際)です。ちょっとサイズあってないのですが…

山水画に描かれるモチーフには、古くから以下のような深い意味が込められています。
- 年中飾れる万能性: 特定の季節(花や鳥など)を描いたものとは異なり、水墨山水や淡彩山水などは季節を問わず常時掛ける掛け軸として非常に適しています。
- 大自然のパワー(気): 深山幽谷(深く静かな山や谷)は、生命力の源である「気」が宿る場所とされ、家運隆盛や癒やしをもたらすとされています。
- 理想の世界: 世俗の喧騒から離れた大自然の景色は、住む人の心に穏やかな安らぎをもたらす「理想郷」を表現しています。
また、四君子(しくんし)は、梅・竹・蘭・菊の4種を指し、中国の宋代に生まれた画題です。それぞれが気高く、逆境にも耐え忍ぶ優れた特徴(君子)を持つことから、徳の象徴とされています。
- 梅:寒中に花を咲かせ、逆境に耐える強さを表す。
- 竹:冬でも青々とし、雪の重みにも折れない忍耐力と素直さを表す。
- 蘭:奥深い山中で清らかな香りを漂わせる姿から、奥ゆかしさと高潔さを表す。
- 菊:晩秋の寒さの中で美しく咲き誇り、長寿と誠実さを表す。
床の間の掛け軸と風水の意味|方角別の選び方
掛け軸を選ぶときに、お家の方位方角から風水的に選ぶ方も多いです。風水的な方角別のラッキーカラーとおすすめの掛け軸は次のようになります。
- 東(発展運・仕事運 / 五行:木)
- カラー: グリーン系、青、水色
- おすすめの絵柄: 成長を意味する「若竹」や、清々しいパワーを持つ「山水画」
- 南(才能運・人気運 / 五行:火)
- カラー: レッド系、オレンジ系、緑
- おすすめの絵柄: 赤を効果的に使った「赤富士」や、生命力を感じる「南天」などの花鳥画
- 西(金運・恋愛運 / 五行:金)
- カラー: 黄色、ゴールド、白、ベージュ
- おすすめの絵柄: 金運アップを願うなら「黄富士」や、実り豊かな「黄金の稲穂」「葡萄」などのモチーフ
- 北(金運・健康運・恋愛運 / 五行:水)
- カラー: ピンク、アイボリー、ワインレッド
- おすすめの絵柄: 心を穏やかにし、水と好相性な「雪景色」や、落ち着いたトーンの「花鳥画
自作の昇鯉の掛け軸。絵の中の一色からワインレッドのファブリックを選びました。我が家の床の間は北向きなので「昇鯉とワインレッド」で風水的には運気の上がる組み合わせです。

掛け軸は自分でも作ることができます。詳しくは、こちらの記事を☝️
これだけは押さえたい!床の間に掛け軸を飾る意味、マナーと注意点
- 掛け軸を傷つけないための正しい手順
- シミやシワを防ぐためのNG行為と保管マナー
掛け軸を傷めないための正しい飾り方と手順
掛け軸を床の間に飾る際には、繊細な美術品を傷つけないための正しい手順とマナーを守る必要があります。まず、掛け軸を広げる際は床に直接置かず、必ず綺麗な敷物の上で行い、矢筈(やはず)と呼ばれる専用の棒を使って掛けるのが基本です。
矢筈:初心者の場合「片口(かたくち)」と呼ばれる、引っ掛ける部分が片方にしかないものが使いやすいです。

矢筈について詳しくはこちらの記事も併せてどうぞ☝️

また、掛け軸の長さが床の間の高さに合っておらず、下部が床に引きずってしまう状態はマナー違反であり、作品を傷める原因にもなります。リノベーションの際には、手持ちの掛け軸のサイズがぴったり収まるように床の間の寸法を設計するか、サイズに合った掛け軸を選ぶよう注意しましょう。
特に床の間と掛け軸の横幅が15cm以上あることで「余白の美」が生まれます。市販の掛け軸でサイズが合わない時は、自作もできます。詳しくは⬇️こちらの記事を!

床の間と掛け軸のサイズについて詳しくは、こちらの記事も☝️
取り扱い時や保管時にやってはいけないNG行為
掛け軸は湿気や直射日光に非常に弱いため、取り扱い時のNG行為を絶対に避ける必要があります。例えば、素手で直接絵や書の白い部分に触れると、手の油分が原因で数年後に黒いシミとなって浮き出てきてしまいます。なので、掛け軸を掛け替えたり、保管したりする作業の時は、白手袋の着用をおすすめします。これをはめて作業するだけで、余計な気遣いが必要なくなり安心して作業に集中できます。
湿気の多い北側の部屋などで長期間保管していると、掛け軸の裏面や表面に茶色いシミが発生するリスクが非常に高くなります。十分にご注意ください。


さらに、片付ける際にきつく巻きすぎたり、湿気を含んだまま箱にしまったりすると、カビや折れジワが発生して元に戻らなくなります。大切な掛け軸を長く美しく保つために、風通しの良い晴れた日に掛け替えを行い、優しく丁寧に扱うことを心がけてください。
紐はキツすぎず、ユルすぎず。また、桐箱で保管する事をお勧めします。

桐箱への保管方法やしまい方はこちらの記事に☝️
古い実家で床の間を意味あるリノベーションができた体験談
実家のリノベーションにおいて、和室の床の間をどのように再生させるかは、多くの人が直面する大きな課題です。

古い家ならではの趣を活かしつつ、現代の快適な住環境を取り入れるリノベーションは、家族の歴史を未来へ繋ぐ素晴らしい試みです。空間の特性を見極めながら、ご自身のライフスタイルに最も適したデザインや活用方法を見つけ出してください。


床の間の掛け軸の意味と飾り方に関するよくある質問(Q&A)
- Q. 作者がわからない古い掛け軸はどうすればいいですか?
A. 実家から出てきた古い掛け軸の価値が分からない場合は、勝手に処分せず、まずは古美術商や専門の買取業者に査定を依頼することをおすすめします。有名な作者の作品でなくても、歴史的な価値が認められるケースもあります。価値に関わらず手放したい場合は、お寺で人形供養などと同様に「お焚き上げ」をしてもらうと気持ちの整理がつきます。 - Q. モダンな和室に合う掛け軸の選び方はありますか?
A. 現代風にリノベーションした和モダンな空間には、伝統的な図柄だけでなく、抽象的なアートのようなデザインや、モダンな書体の掛け軸がよく映えます。また、軸先(掛け軸の下部の両端)が木製や金属製のシンプルなものを選んだり、北欧風のインテリアにも馴染む淡い色使いのものを選んだりすると、おしゃれな雰囲気を演出できます。

まとめ:床の間の掛け軸の意味と飾り方を知って実家の床の間を素敵に再生しよう
- 床の間や掛け軸には、おもてなしの心や家族の歴史を守る深い意味がある
- リノベーションの際は、ライフスタイルに合わせた「和モダン」や「収納化」の選択肢がある
- 正しい飾り方と保管マナーを意識し、大切な美術品を次の世代へ繋ごう
実家の和室にある床の間や掛け軸には、家族の格式を守り、訪れる客人をもてなすという深い意味が込められています。リノベーションを行う際は、これらの歴史的背景や本来の役割を理解した上で、残すか新しく作り変えるかを判断することが重要です。
もし伝統を活かして和モダンな空間にするのであれば、正しい飾り方やマナーを守り、季節に合わせたたり、龍・鯉・山水など、絵柄ごとに家族の願いを込めた意味がある掛け軸を選ぶことで、暮らしに豊かな彩りが生まれます。ご自身のライフスタイルに寄り添った最適な選択をして、思い出の詰まった実家をより素敵で快適な住まいへと再生させてください。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。感謝です。
掛け軸は、自分でも簡単に作ることができます。ぜひ、挑戦してください。
詳しくはこちらの記事に!












