こんにちは、絵師の徳田智子です。絵の道に入ってはや半世紀。
油絵の具を使い始めてから30有余年、アクリル絵の具を愛用して5年が経ちました。
絵を始めてみたいけれど、油絵の具とアクリル絵の具のどちらを選べばいいのか迷っていませんか。
この記事では、成分や乾燥時間といった基本的な違いから、発色や質感などの仕上がりの差、さらには安全性や費用面まで、両者を徹底的に比較していきます。
読み終える頃には、ご自身の制作スタイルや目的に合った絵の具がどちらなのか、迷いなく選べるようになるはずです。
| 比較対象/絵の具の種類 | 油絵の具 | アクリル絵の具 |
|---|---|---|
| 乾燥時間 | 数日〜数週間(数ヶ月の時も) | 早い(数十分から数時間程度) |
| 溶剤 | 石油系溶剤(テレピン油や・ペトロールなど) | 水で溶ける(特に必要ない) |
| 仕上がり | ツヤが残りやすく、重厚感のある深い発色 | マットな質感、絵の具そのものの発色が残る |
| 臭い | 石油系溶剤の臭いが発生・換気が必要 | 水で溶くので臭いは無い・換気の必要性は低い |
| 費用 | 絵の具+溶剤など周辺道具も必要。初期費用がやや高くなる傾向 | 安価なセットもあり、初期費用は比較的抑えられる |
それでは、それぞれの絵の具の特徴を詳しく見ていきましょう。
神の使い:ある冬の雨の日、春日奥山で出会った年老いた鹿は、大樹から出現したきたかのような姿で佇んでいた。(油絵の具で時間をかけてじっくり描きました。

油絵の具とアクリル絵の具の違いをまず結論から知ろう
この章では、価格や見た目だけでは分かりにくい「素材そのものの違い」に踏み込んで解説します。
成分・乾燥時間・溶剤という3つの観点を押さえることで、なぜ仕上がりや扱い方に差が出るのか、その理由まで理解できるようになります。
油絵の具とアクリル絵の具:成分(顔料・バインダー)の違い
絵の具は「顔料」と、それを画面に定着させる「バインダー(展色剤)」の組み合わせでできています。
油絵の具のバインダーには乾性油(亜麻仁油など)が使われており、アクリル絵の具のバインダーにはアクリル樹脂(合成樹脂)が使われています。
このバインダーの違いこそが、乾燥の仕組みや溶剤の種類、さらには仕上がりの質感まで、あらゆる違いの根本原因です。
油絵の具は油が酸化重合することで固まるのに対し、アクリル絵の具は水分が蒸発することで樹脂が固まります。
固まり方の仕組みが根本的に異なるため、この後に解説する乾燥時間にも大きな差が生まれます。
愛用の絵の具、左側:油絵の具ーホルベイン&クサカベ 右側:アクリル絵の具ーターナーU-35シリーズ

油絵の具とアクリル絵の具:乾燥時間の違い
アクリル絵の具は水分の蒸発によって固まるため、早ければ数十分から数時間程度で表面が乾燥します。
一方で油絵の具は油の酸化重合によって固まるため、指で触れる程度まで乾くのに数日、完全に乾燥するまでには数週間から数ヶ月かかることもあります。
この乾燥時間の差は、単なる制作スピードの違いにとどまりません。
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乾燥が速いアクリル絵の具は、短時間で塗り重ねを繰り返す表現に向いています。
反対に乾燥が遅い油絵の具は、絵の具が乾く前に色をなじませたり、じっくり時間をかけて色を作り込んだりする表現に向いています。
油絵の具とアクリル絵の具:溶剤・メディウムの違い
油絵の具を薄めたり筆を洗ったりする際には、テレピン油やペトロールといった石油系の溶剤を使用します。
これらの溶剤には独特の臭いがあり、換気が不十分な環境で長時間使用すると、頭痛やめまいなどの体調不良を引き起こす可能性があるため注意が必要です。(無臭のものもありますが、こちらも換気は必要です。)
左側:ポピーオイル 右側:オドレスペトロール(こちらは無臭)

一方でアクリル絵の具は水で薄めることができ、筆も水で洗えるため、専用の溶剤を用意する必要がありません。

油絵の具とアクリル絵の具:仕上がり・表現力の違いを徹底比較
ここからは、実際に作品として仕上げたときに現れる「見た目の違い」を掘り下げていきます。
発色や質感、混色のしやすさ、そして完成後の経年変化まで理解しておくことで、自分が表現したいイメージに近い絵の具を選びやすくなります。
発色とツヤ・質感の違いを比較
油絵の具は乾燥後もツヤが残りやすく、重厚感のある深い発色が特徴です。
これは主成分である油自体に光沢があることに加え、絵の具の層が厚みを保ったまま定着するためです。
アクリル絵の具は乾燥するとやや落ち着いたマットな質感になりやすく、絵の具そのものの発色がそのまま出やすい傾向があります。

混色のしやすさとグラデーション表現の違いを比較
油絵の具は乾燥が遅いという特性を活かし、パレットの上でも画面の上でも時間をかけてじっくり色を混ぜ合わせることができます。

この特性は、色と色の境界を滑らかにぼかすグラデーション表現との相性の良さにつながっています。
アクリル絵の具は乾燥が速いため、画面上で色を混ぜる時間には限りがあります。

ただし、アクリル絵の具も専用のメディウム(リターダー)を加えることで乾燥時間を調整し、グラデーションを作りやすくすることも可能です。
ホルベインのリターダー
ターナーのリターダー
塗膜の柔軟性と経年変化を比較
アクリル絵の具の塗膜はゴムのような柔軟性を持っており、キャンバスが多少動いてもひび割れしにくいという特徴があります。
油絵の具の塗膜は乾燥後に硬くなる性質があり、下地の動きに追従しきれない場合、長期間のうちにひび割れ(クラック)が生じることがあります。

初期の作品:クラック(ひび割れ)どころか、上の層が剥がれ落ちています。油絵の具の特性を知らずに描画していました。
このため、油絵の具で描く際には、下地から絵の具の層まで「厚い層の上に薄い層を重ねない」という原則を守ることが、作品を長持ちさせる上で重要です。
油絵の具とアクリル絵の具:扱いやすさ・安全性・費用で比較する
制作を続けていく上では、表現力だけでなく日々の扱いやすさも重要な判断材料になります。
ここでは、臭いや安全性、片付けのしやすさ、そして費用面まで、実際に使い続けることを想定した違いを解説します。
臭い・安全性・換気の必要性の違いを比較
油絵の具は制作中も片付けの際も石油系溶剤の臭いが発生するため、窓を開けたり換気扇を回したりできる環境が欠かせません。

小さなお子様やペットがいるご家庭、集合住宅で窓を開けにくい環境では、この臭いの問題が制作場所を選ぶ大きな要因になります。
アクリル絵の具は水を溶剤として使うため、臭いがほとんどなく、換気に神経質にならなくても制作を始めやすいという利点があります。
片付け・お手入れのしやすさの比較
アクリル絵の具は水洗いだけで筆やパレットの汚れを落とせるため、後片付けにかかる時間や手間が少なくて済みます。
筆のお手入れいついて詳しくは、こちらの記事を参考に☝️
ただし、アクリル絵の具は乾燥すると水に溶けなくなる性質があるため、パレットや筆に付いたまま放置すると、乾燥後は非常に落としにくくなる点には注意が必要です。
パレットに着いたアクリル絵の具の落とし方はこちらの記事も参考に☝️

油絵の具は専用のブラシクリーナーや石鹸を使って筆に染み込んだ油分をしっかり落とす必要があり、片付けに一定の時間がかかります。

価格・入手しやすさ
アクリル絵の具と油絵の具はいずれも、学生向けの安価なグレードからプロ向けの高価なグレードまで幅広い価格帯で販売されています。
学生向けのアクリルガッシュのセット

一般的には、アクリル絵の具の方が画材店だけでなく大型の雑貨店やインターネット通販でも手に入りやすく、初めての一式を揃えやすい傾向があります。
油絵の具は絵の具本体に加えて、溶剤やメディウム、専用の筆やパレットナイフなど周辺道具も揃える必要があるため、初期費用がやや高くなりやすい点も踏まえておくとよいでしょう。
油絵の具とアクリル絵の具:初心者にはどちらが向いている?選び方のポイント
ここまで見てきた違いを踏まえて、実際にどちらを選べばよいのか、具体的な判断基準を整理していきます。
制作環境やライフスタイル、描きたいものによって最適な答えは変わってきます。
初めて絵を描く人におすすめなのはどっち?
これから絵を始める方には、乾燥が速く、水で扱えて片付けも簡単なアクリル絵の具から始めることをおすすめします。

失敗してもすぐに上から塗り直せる手軽さは、絵の具の扱いに慣れていない段階では大きな安心材料になります。

一方で、時間をかけてじっくり色を作り込む古典的な油絵の技法に憧れがある方は、最初から油絵の具に挑戦するのも一つの選択です。

制作スタイル・環境別の選び方
換気が難しい部屋で制作する方や、短時間で作品を仕上げたい方にはアクリル絵の具が適しています。
逆に、アトリエなど換気のとれた専用の制作スペースがあり、数週間から数ヶ月かけてじっくり一つの作品と向き合いたい方には油絵の具が向いています。

筆者が油絵の具中心に制作していた頃は、アトリエとして古い1軒家を借りていました。その頃は、換気も十分にできましたし、乾燥のスペースも十分にありました。自宅の1室しか自由に使えなくなってからは、アクリル絵の具での描画が中心になってきました。
何に描くか(支持体)で選ぶ
アクリル絵の具は紙・木製パネル・キャンバスなど幅広い素材に描くことができ、下地処理の自由度も高いことが特徴です。

油絵の具は油分が紙や木材の繊維を傷めてしまう性質があるため、油性用の下地処理(地塗り)を施したキャンバスやパネルに描くのが基本です。
筆者が張りました。F4号麻キャンバス

油絵の具とアクリル絵の具:筆者が実際に使って感じた違い
ここでは、資料やデータだけでは伝わらない、実際に両方の絵の具を使い続けてきたからこそ分かる感覚的な違いを紹介します。
制作過程で感じたそれぞれの個性
筆者は油絵の具の愛用期間が長く、おおよそ30年以上使い続けてきました。
油絵の具は本当に乾燥の時間がかかります。表面の触れる部分の「表面乾燥」に約1〜7日、中までしっかり固まる「完全乾燥」には約半年(180日)かかるそうです。とても我慢強く、乾燥するのを待っていました。

乾燥に時間はかかりますが、じっくり仕上げる楽しみがあります。
油絵から転向して、アクリル絵の具の特性を理解せずに使い出したら…。アクリル絵の具はとんでもなく乾燥が早くて!ついうっかりしていると、描画中にも乾燥してしまいます。ですから、筆やパレットの扱いには注意してください。

簡易パレットや紙パレットの使用がいいですね。でもどうしても使い捨ては嫌だなあっと思うようでしたら、筆者のように「卵パック」を集めておいて使うのはいかがでしょう。筆者は「リサイクルパレット」と呼んで重宝しています。

リサイクルパレットについて詳しくはこちらの記事を☝️
作品づくりで使い分けている理由
展示会や展覧会、期日までに仕上げなければならないときは、迷わずアクリル絵の具を使います。

それから、思い浮かんだアイデアをすぐに表現したい時もアクリル絵の具ですね。


鑑真和尚が5度の渡航失敗や失明という大きな苦難を乗り越え、6度目の挑戦でやっとの思いで日本に仏教を伝えてくださったイメージです。和尚が体験した苦難の時間と同じぐらいの時間を制作にかけました。
油絵の具・アクリル絵の具:それぞれの代表的な作品と歴史
絵の具の特性を理解する上で、それぞれの絵の具が歴史の中でどのように使われてきたのかを知ることも役立ちます。
油絵の具が生んだ名画
油絵の具は15世紀のヨーロッパで技法が確立されて以来、何世紀にもわたって数多くの名画を生み出してきました。

ゆっくりとした乾燥時間を活かした緻密な陰影表現は、ルネサンス期から近代にかけての西洋絵画の重要な表現技法として発展してきました。
アクリル絵の具が切り開いた表現
アクリル絵の具は20世紀半ばに開発された比較的新しい画材であり、乾燥の速さを活かした大胆な色面構成や、ポップアートをはじめとする現代美術の表現と共に広まってきました。
メキシコでは壁画になくてはならない素材です

速乾性という特性は、従来の油絵の具では難しかった制作スピードとダイナミックな表現を可能にしました。
油絵の具とアクリル絵の具 まとめ|違いを理解して自分に合った絵の具を選ぼう
油絵の具とアクリル絵の具は、バインダーの違いによって乾燥時間・溶剤・仕上がりの質感まで、あらゆる面で異なる個性を持っています。
乾燥が速く水で扱えるアクリル絵の具は手軽さを求める方に、ゆっくりと色を練り込める油絵の具はじっくり制作に向き合いたい方に向いています。
・アクリル絵の具は速乾・水性で扱いやすく、初心者にも始めやすい
・油絵の具は乾燥が遅い分、じっくりとした表現やツヤのある質感が得られる
・制作環境や描きたい作品のイメージに合わせて選ぶことが大切
絵を描くためのスペースが確保できて、本格的に絵の勉強をする人には「油絵の具」をおすすめします。
乾燥させるのに時間もかかるので、スペースが確保できない人にはお勧めできません。
また、油の匂いもかなりきついので匂いが気になる人も避けておいた方がいいと思います。
絵の具の扱いもしやすく、匂いもない「アクリル絵の具」は、絵を描いてみようと始める人にはお勧めです。
ただ、アクリル絵の具は、乾燥がとても早いので、描画中や後始末の際は注意が必要です。
油絵の具とアクリル絵の具の違い:よくある質問(FAQ)
Q1. 油絵の具とアクリル絵の具は混ぜて使えますか?
A1. 油絵の具とアクリル絵の具を直接混ぜて使うことは基本的にできません。
油分と水分は性質上なじまないため、混ぜると発色不良や塗膜の劣化につながる可能性があります。

ただし、アクリル絵の具で下地を作った後に油絵の具で描き重ねる、という順序であれば問題なく制作できます。
Q2. アクリル絵の具から油絵の具に転向することはできますか?
A2. 可能です。
アクリル絵の具で培った構図や配色の感覚は、油絵の具に取り組む際にも活かすことができます。
ただし、乾燥時間や溶剤の扱いなど基本的なルールが異なるため、最初は薄塗りの技法から練習することをおすすめします。
Q3. 初心者が最初に揃えるべき道具は何ですか?
A3. アクリル絵の具の場合は、絵の具一式・筆数本・パレット・水入れがあれば制作を始められます。
油絵の具の場合は、これらに加えて溶剤・メディウム・ブラシクリーナー・油性下地処理済みのキャンバスが必要になります。
こちらは⬇️F4号サイズの張りキャンバス。全ての下処理が済んでいます。筆者が自分で張りました。

キャンバスの張り方を詳しく知りたい方はこちらの記事を☝️
筆者は油絵初心者の時、張り切って「木箱」入りのセットを購入しました。
絵の具12色とパレット、筆、ペインティングナイフ、油壺やペインティングオイルなど描き初めに必要なものは揃っていました。
でも、油絵の具の性質を知らずに使い始めたので、筆についた油絵の具はなかなか落ちないし、キャンバスボードに描いた絵の具は乾かないし、散々でした。
30年以上使い続けて、画材の良さを理解し、自分らしい表現の方法も発見して描くことが大好きになりました。そして今度はアクリル絵の具に出会い、こちらも、画材の研究のおかげで素晴らしさを分からせていただきました。
どちらの絵の具もそれぞれの良さがあり、簡単にどちらがいいと言えません。どうか、皆さんはこの記事を読んで、より「自分に合っているな」という絵の具から始めていただければと思います。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。感謝です。
アクリル絵の具の選び方について詳しくはこちらを☝️
アクリル絵の具の描き方について詳しくはこちらを☝️













・スピーディーに塗り重ねたい → アクリル絵の具が向いている
・アクリルでもぼかしたい → リターダーなどの遅乾メディウムを活用する